「僕らは二つの時間を生きている。一つは線的時間で、それは僕らに物語をもたらす。もう一つは円環的時間で、それは僕らに日常をもたらす。」(『居るのはつらいよ ケアセラピーについての覚書』,東畑開⼈,2019,p.127)
本施設は、段丘の地形に建ち並ぶ住宅街の一角に建つ、軽度な精神疾患を持つ人が通うデイサービス施設である。入所者は、日中をここで過ごし、運動や学習など様々なプログラムを通して、社会生活に復帰することを目指し、この施設に通う。既存施設では、入所者が思い思いに、椅子やソファに座り、特に何をするでもなく時間を過ごしていたことが印象に残った。日常が非日常である彼らの生活の中に、繰り返される自然の時間を感じられる空間をつくることで、どうにか日常を取り戻せないかと考えた。
計画にあたっては、日々の活動の中心となる訓練・作業室に、トップライトを設けつつ、斜材とルーバーで大屋根を支えながら柔らかい光を室内に取り込む「光溜り」の空間をつくることで、時間ごとに変化する光を感じることができるようにした。
また、斜面地という敷地環境を活かし、南北の庭に抜ける大きな開口を切妻屋根によって絞ることで、外部からは中が見えづらく内部からは外部が眺められ、プライバシーを確保しながら開放的な空間を確保している。さらに、南北の半屋外空間と室内の床・天井を連続させ、諸室と訓練・作業室間に様々な開口を設けることで、外の景色を身近に感じ、入所者の気配や自然の風景をどこにいても感じられるように計画している。
以上より、建物の平面はできる限りシンプルに構成し、断面の操作によって、大空間や光、ランドスケープを室内に取り込むことで、機能性を確保しつつ、変化のある内部空間をつくることを目指した。
この施設に通われる入所者の方々にとって、日常の些細な変化を感じられるこの建物が、社会生活に復帰できるための一助となればと考えている。
所在地:千葉県我孫子市
工事種別:新築
用途:障害福祉サービス事業所
床面積:99.94㎡
施工:大井建設
竣工年:2020年12月
写真:小野寺宗貴
共同設計:山田美紀一級建築士事務所